【<競馬>クラシック物語2006年】牝馬の勢いが牡馬を飲み込んだ63年ぶりのクラシック

 この年ばかりは、牝馬を抜きにしてはクラシック戦線を語れない。朝日杯一番人気となったのは、最近良馬を生み出しているスペシャルウィーク産駒のオースミダイドウ。3連勝で朝日杯に駒を進めたが、勝ったのは、4年後に三冠馬の全兄となるドリームジャーニー。なかなかG1を手にできなかったステイゴールドの産駒だ。直線一気の末脚は、クラシックを席巻することも想像された。牝馬は、ファンタジーSで5馬身差ぶっちぎりで重賞2連勝を飾った断然人気のアストンマーチャンを軽々差し切ったのは、ウオッカ
 
 年明けからの注目されだしたのは、アドマイヤオーラ。これまた牝馬の有力馬、ダイワスカーレット中京2歳Sでは後塵をはいした借りを返すように、シンザン記念では差し切って見せた。母は、ビワハイジ。同じく名牝となるエアグルーヴとクラシック牝馬戦線を争った馬だが、最終的に重賞馬7頭を生み出す素晴らしい名牝である。


 アドマイヤオーラは、勢いに乗じて、弥生賞でも2歳王者、ドリームジャーニーを退け1番人気。レースでも、完勝し、クラシックの主役に躍り出るまで成長をした。

 アドマイヤオーラの父は、アグネスタキオンであるが、もう1頭、アグネスタキオンのライバルであったジャングルポケット産駒にも有力馬が出てきている。東京スポーツ杯、ラジオNIKKEI杯と重賞を連勝しているフサイチホウオーである。共同通信杯にも圧倒的な人気で出走したが、見事に重賞3連勝を決めた。

 

 もう1頭、この年のこの時期に話題となった馬は、オーシャンエイプス。デビュー戦の8馬身差の圧勝のインパクトから、2年前の無敗の三冠馬の再来かとまで話が膨み、2戦目のきさらぎ賞が大注目のレースとなった。1戦1勝馬だが、1.3倍の圧倒的な人気を背負う。ただ、逃げ戦法を試みたラジオNIKKEI杯5着のアサクサキングスに追いすがるも届かず、それどころか、後ろにいたナムラマース、サムライタイガースにも刺され、馬券圏外に陥落。オーシャンエイプスは、きさらぎ賞以降のアザレア賞、青葉賞も1番人気と注目を集めつづけるが、クラシックのチケットを獲得することはなかった。

 

 一方、牝馬戦線では、チューリップ賞に注目が集まる。アドマイヤオーラと五分の戦いをしたダイワススカーレットが、年があけて既に1勝している2歳牝馬ウオッカとのガチンコ対決に挑んだ。レースは予想通りの2頭のマッチレースとなったが、逃げ粘ろうとするダイワスカーレットを全く苦も無くウオッカが差し切った。2頭は、3着以下に6馬身もの差をつけていた。しかし、本番の桜花賞、同じような展開となったが、今度はウオッカが必死に追ってもダイワスカーレットに届かない。止まらない。ウオッカは、牝馬の1冠目をとれなかった。この敗戦が、奇しくも、後々、すばらしいドラマを生み出すとはだれも考えていなかったが。

 

 さて、クラシック第一弾、皐月賞アドマイヤオーラフサイチホウオーの2強の様相。2歳王者は、弥生賞3着で評価を落とし、離れた3番人気。レースが開始すると、ラジオNIKKEI杯でフサイチホウオーの2着で若葉Sを勝ち上がってきた7番人気ヴィクトリーが逃げる。それとあわせて、15番人気のサンツェペリンが続く。直線に入れば、後方に控える人気の3頭が一気に差し切るのだろうと思いながらレースを見ていたファンもいたが、前がなかなかとまらない。フサイチホウオーは4コーナー、外に膨れるものの、そこから前を次元の違う脚で強襲。逃げた2頭以外を一気に交わす。ただ、4コーナーで膨れた影響からか惜しくも2頭にハナ差届かず3着。結局いったいったの競馬になり、ヴィクトリーが栄冠をつかんだ。フサイチに負けたラジオNIKKEI杯の雪辱を果たした。サンツェペリンは惜しくも2着。大金星を逃すも、馬連は約10万もの大波乱を演じた。1番人気のアドマイヤオーラは、フサイチを4コーナーまではマークしていたが、直線はついていけず、じりじりのびるだけの競馬になり、4着に敗れた。

 

 本番のダービーを迎える。人気は、皐月賞、負けたが、異次元の足を印象付けたフサイチホウオーに集まった。東京競馬場は、長い直線であり、東京スポーツ杯、共同通信杯と実績も十分。当然の人気だ。ダービーの前哨戦では、1番人気馬が勝てず、有力とまでは考えられなかった。フサイチ以外で注目は、牝馬ウオッカの参戦だ。牝馬は64年間、ダービーを勝っていない。そのため、出走してくること自体が珍しかったが、桜花賞牝馬3冠が絶たれたウオッカにとっては、ためらうことはなかったのだろう。桜花賞までの大人びたレースっぷりから、3番人気にまでなった。

 レースは、皐月賞で逃げなく敗北したアサクサキングスが逃げる。2番人気の皐月賞馬は、痛恨の出遅れを喫し、向こう正面で4番手まで押し上げる。フサイチホウオーは、その後ろで待機。人気を落としていたアドマイヤオーラも同じく後ろから。牝馬ウオッカは、中断からじっくり進める。直線に入る頃、先頭のアドマイヤキングス、皐月賞と同じ2番手で進めるサンツェペリンが、それ以降を離している。馬は違うが、皐月賞と同じような感じだ。そして、先頭アサクサキングスの足が衰えない。突き放しにかかる。後方外側からフサイチホウオーアドマイヤオーラが追いだしてくるが、フサイチホウオーの動きが怪しい。伸びない。オーラのほうが勢いがある。ただ、それよりももう1段上のギアを持つような牝馬ウオッカが、2番手軍団から一気に抜け出し、先頭を追い詰める。牝馬とは思えない切れ味、ゴール前200mで一気に、アサクサキングスをかわし、先頭に躍り出る。後ろからは来ない、差は開くばかり。圧勝だ。ここに64年振りの牝馬のダービー馬が誕生した。逃げたアサクサキングスがなんとか3馬身差の2着に残り、アドマイヤオーラが3着まで追い上げた。牝馬に屈したフサイチホウオーは、前をとらえられないどころか、最後方から来たドリームジャーニーにも捕まえられ、7着に沈んだ。逃げた馬2頭と後方から追い上げて届かず馬、最終的にも牡馬だけでみたら皐月賞の再現のようなレース展開となったが、1頭の牝馬の化け物だけが、その牡馬を超越してみせた。

 

秋の菊花賞アサクサキングスがダービーでの牡馬最先着の意地を見せて、最後の1冠を手にした。ウオッカは、ダービー直後の宝塚記念に出走したのが悪かったのか、秋は活躍ができず、秋華賞では天敵ダイワスカーレットにまたしても敗北した。ただ、翌年からのウオッカは、64年ぶりの牝馬ダービー馬に見合う活躍をみせていくのだった。